鍼灸には病院で原因不明、病名がつかないような様々な症状の方が来られますが、その中でも最も多いのはやはり「痛み」を持つものです。

「鍼灸はコリ、痛みを取るもの」というのがどうも一般の方々の持つイメージのようですから必然かもしれません。整形外科やペインクリニックに近いイメージをもたれているのでしょう。

痛いというのは症状名で病名ではないので色々な病気にくっついて現れます。その数も結構多いですね。筋筋膜性腰痛、変形性膝関節症、月経痛、肩関節周囲炎(四十肩)、緊張性頭痛などはよく見られる代表的なものです。

こういった病名に関わらず、分類上3ヶ月、または6ヶ月を超えて痛みが治まらないものを慢性疼痛と呼びます。 原因となる怪我や病気が治ると思われる時間を超えても治まらない痛みのことです。

そしてこの中にまたもや分類上、神経障害性疼痛というものがあります。原因が治っていると思えるのに何らかの理由で神経が痛みを感じている状態でズシーン、ビリビリ、ジンジン、チクチクなどと表現される事が多いです。 これがかなりしつこくてなかなか取れません。 坐骨神経痛、ヘルペス、糖尿病、脊柱管狭窄症、癌、頚椎症、ヘルニア、脳血管障害後後遺症、心身症などなど意外とたくさんあります。

西洋医学での治療法は神経ブロック(所謂ブロック注射)、プレガバリン(リリカカプセル)、抗うつ剤、抗てんかん薬、これらでダメならオピオイド系鎮痛薬(モルヒネなど)が処方されます。 痛みを出している部分がわからないからその途中や痛いと感じている脳をなんとかしようという発想ですね。

ところが、これでも治らない人。または副作用などの理由でこれらを拒否する患者さんが一定数いて鍼灸に訪れてくることがあります。 この方達は痛みを取るのが望みですから一刻も早く治したいと言う気持ちは解りますが、慢性化しているものを全て一回で治そうなんて不可能です。 もちろん、その場の緩和は行いますがそれで治ったわけではありません。慢性化したものの多くは症状が出たり出なかったりを繰り返し、だんだん良くなり、知らない間に治ってしまうという経過を辿ります。 ただ、ごくまれに一度で治ってしまうことがあり、その事実だけが宣伝として大きく取り上げられるのです。 パチンコ好きの人が勝ったときの話だけが大きいのと同じですね(笑) どうして治ったのか?は別の記事に任せるとして、慢性病はゆっくり時間をかけて治るのがノーマルな治り方だと言うことです。

 

実際には鍼灸により慢性病の治癒は多くの場合、可能です。しかし時間がかかる。それは鍼灸そのものが治しているのではなく鍼灸によって患者さんの体が治癒に働くよう仕向けるのが鍼灸師の治療だからです。 西洋医学でも東洋医学でも同じですが医者がその手で直接治せる病は本当に限られています。 ほとんど全てと言ってもいい病は患者本人の体が自分で治す以外に無いのです。

医者とは洋の東西を問わず、病を治すための先導役ができるだけです。病を治す手順や近道を知っているだけで実際に治癒への道を歩くのは患者さん本人以外あり得ないのです。