変わらないことの大切さは前回書いたようにとても見逃されやすく、軽視されやすいものです。 それは、殆どの人が、「病んでから治そうとする」ことにしか興味を持たないからで、本当に必要な「病む前に治す」に全く目を向けないからです。 発病して、つらい症状が出てから治療にかかるので当然真っ先に症状を消すことに力を注ぐことになります。 これは全く人道的なことで医療者としては当たり前。患者の立場からも最も望まれることだからです。

しかし、病んでしまったということは貴方の体が持っていたホメオスタシス「病まない力」を振り切って発病したのです。それまでにかかった時間、経緯を無視してはいけません。 貴方はこれまでの時間、気づいたかもしれない体の変化に無頓着だったのです。 または体が変化していることに気付いていても無視したのかもしれません。

頭痛や腹痛、月経の不調や肩こり、目のかすみ、耳鳴り… 日常生活で起こるなんてことない症状は健康状態から変化しようとする体の反応であり本格的な病の前兆です。 それ自体が悪化して生活に支障をきたすようになることもあれば、全く別の病の前兆ということもあります。その関連性は全てを把握することは出来ませんが、少なくとも前兆の段階で治療すればもっと早く治るはずです。

 

西洋医学の場合、最近でこそ生活習慣病などと言われ自己責任の部分がクローズアップされていますが、基本的に病になるのは「自分以外のせい」という考えがあります。 風邪を引くのはウイスルのせい。 お腹を壊すのは細菌のせい。 目が見にくいのはブルーライトのせい。 体がだるいのは食べ物のせい。 眠れないのは仕事のせい。 例を挙げればキリがありません。

だから、西洋医学はその原因を排除しようとするのです。 殺菌だ。 ブルーライトカットレンズだ。 自然食品だ。 などなど…。

これもある意味での真実ではあるでしょう。確かに発病、悪化させる原因がなければその病気にはなりません。しかし、生物の体に害を与える刺激はそれこそ無限にあるわけです。 仮に全てを解明したとして、その全てを排除すると貴方の周りに何が残るのでしょう? なんの刺激もない空間の完全無菌にした世界に住み、仕事などせずに滅菌殺虫済みの完全無農薬有機野菜でも食べるのでしょうか? そのような世界は非現実的だし、なにより生活に必要なものまで排除しないと健康になれないならそれは本末転倒です。

 

東洋医学の場合、病の原因は主に自分にあります。風邪を引くのも自分のせい。 眠れないのも自分のせい。 お腹を壊しても自分のせい。 肩がこるのも、腰が痛いのも、とにかく先ずは自分のせいです。

現代的な言葉で言えば免疫力が弱いとでも言うのでしょう。 あらゆるストレッサーに対し跳ね除けるだけの力が自身になかったことが最大の原因だと考えます。 

このように見てみると西洋医学は周りを変え、東洋医学は自分を変えるのが主な治療です。 周りをいくら変えても自分が貧弱だと必ず病になります。 逆に自分が強靭なら周りの環境など関係なく健康です。 そして、強靭な心身があれば体調は大きく崩れることはなく、安定してた生活を送れるのです。 それを健康といい、安定した変わらない体調を維持する日々の努力を養生といい、その具体的な方法が治療となります。

病む前に治す「未病治」はこのような考えのもとに運用されます。 けっして目に見える効果がすぐに出るものではありませんが、「最も価値のある治療」なのだと昔から位置づけられています。

 

先日アンチエイジングについての記事を書きましたが、誰だって今現在が一番若いのです。 一番若いということは、一番病気にかかりにくく、治しやすいのはです。 これ以降はどう頑張っても老化に向かい生命力や抵抗力は低下します。 今を大切にするから明るい将来があるのであって、今を無駄に生きると将来は運任せです。 

目に見える効果のない治療に励むのはバカバカしいと思う方は、もっと年を経て自分の体力、体調が落ちてきた時にきっと気づくのでそこから始めれば良いでしょう。 自分の人生なので何時からやろうが、一生やらまいが個人の勝手です。 ただ、若返りは不可能なので養生に励むのが遅いと効果が出にくく、養生自体に苦痛を感じることもあります。 心身共に柔軟で健康な若いうちから「変わらない」方が圧倒的に効果を出しやすくて苦労が少ないです。その結果、健康で長生きな人生になりやすいのは当たり前ですね。

 

つづく